Netflixオリジナル作品、「ヒヤマケンタロウの妊娠」(英語名:He’s expecting)のあらすじ、感想、ネタバレ含むあらすじを解説します。
あらすじ
その世界では、男性が妊娠したという例が少なくない件数、報告がされていた。
広告代理店勤務、東京で華やかな生活を送る桧山健太郎は、特定の恋人はつくらず、毎日違う女性に会っていた。ある日、健太郎は吐き気など体調の異変に襲われるようになる。病院を訪れたところ、妊娠していると告げられる。亜季という女性がお腹の子の母親だと気づき、亜季に妊娠したことを告げ、妊娠中絶の書類へサインするようお願いした。
35歳でフリーライターの亜季は、仕事に生きる男勝りな女性で、今はまだ結婚をしたくないと考えている。しかし、周りが子育てをしているのを見て、子どもが産めるリミットが近づいていることに焦りを感じていた。亜季は、「妊娠を仕事を役立ててみては」と提案し、やんわりと子どもを産むことを薦めるが、その言葉に苛立った健太郎に断られてしまう。
妊娠中絶までの期間、体毛は濃くなり、母乳が出たり、甘いものが食べたくなったり…。様々な体調の変化により、仕事にも身が入らなくなる。
今では毎日体調が優れず、身なりにも無頓着になり、気づけば同僚に仕事は奪われ窓際社員として雑用をこなす日々を過ごしていた。妊夫なのに電車で席を譲られることはなく、力仕事や雑用をいつも通り押し付けられ、ストレスをため続ける。
男性の妊娠がここまで理解されていないことにストレスを抱える中で、知り合った同じ妊夫がいた。彼には妻と息子がいて、今回初めて自分が妊娠して産む予定だと話す。その男性との出会いを機に、家族を持ちたいと考えるようになり、お腹の子どもにも愛情が芽生え始める。
ネタバレ含むあらすじ
※ここからネタバレを含みます。
健太郎はクライアントとの会議で、「広告モデルに自分を起用して、プロモーション活動をしてはどうか」と提案し、自分が妊娠していることをその場で全員に打ち明ける。
予想外にクライアントはその案を絶賛し、結果は大成功。男性妊夫がモデルになることはかつてなかった試みで、社会では大きな話題性を呼んだ。健太郎は一躍時の人となり、妊夫オンラインサロンを作るなど、社会のおける妊夫への理解を高めようと奮闘する。
そんなある日、妊夫の友人が流産する。彼の妻から、「夫が妊夫であるせいで息子がいじめられている。だから、正直子どもが産まれてこなくて安心した」と打ち明けられる。
お腹の子どものことが心配になり、胎動のあるなしで一喜一憂する日々。仕事はますます多忙となり、ホルモンバランスが不安定になり勢いで辞表を提出する。しかし、社長、役員、上司全員出てきて説得される。健太郎は結婚して子育てしたいと考えていたため亜季にプロポーズするが、「子育ては一緒にするが、結婚はしない」と断られる。
そこに、自分の母親だと名乗る男性が現れる。健太郎は母子家庭で、昔から父親はおらず、母親は仕事で忙しく寂しい思いをして育ってきた。
健太郎は父親から、自分は父親が妊娠し産んだ子どもだと告げられ困惑する。母親は、父親がふたりを置いて逃げたため、健太郎にそのことを隠していた。母親はまた逃げだすからと父親と関わることを反対するが、男性妊娠の苦労をしる健太郎は父親をあわれに思い、家に住まわすことにする。
父親は男性用マタニティグッズの事業を立ち上げようと提案し、妊夫の仲間もそれに協力的だった。しかし、父親は出資金を持ち逃げし、健太郎は仲間から責められる。さらに健太郎の父親は詐欺師だとマスコミ各社が報道し、騒ぎを沈静化させるため健太郎は謝罪会見を行うことになる。
健太郎は謝罪会見において、男性妊娠を受けいれられない社会で嫌悪や偏見の目に苦しんだ父を哀れに思い、父親をかばうような発言をする。そして、謝罪会見中に陣痛が来て倒れ、病院に搬送される。
その頃亜季は、シンガポールで仕事をしないかと誘われ、自分の夢のために日本を出発しようとしていた。しかし、空港のテレビで会見中に倒れた健太郎を見た亜季は、急いで病院へ向かう。
健太郎は帝王切開手術を受け、無事に男の子を出産する。亜季は仕事と子育てを両立する大変さを実感し、シンガポール行きを諦めようとするが、健太郎が夢を選ぶように説得したことでシンガポールで仕事をすることを選び海外へ旅立った。健太郎は父と母の協力を得ながら、子育てに奮闘する。
電車で女子高生が妊娠中の男性に席を譲るところを健太郎が目撃するシーンで物語が終わる。
感想
前半は妊婦さんの苦労や女性のキャリアに焦点が当てられており、後半は男性妊婦への偏見や妊娠した男性が不自由さを抱える世の中を描いています。
私はまだ妊娠出産をしたことがありませんが、妊娠を経験した方なら共感しながら見れるのでないでしょうか。そして、男性と女性の立場を逆転させることにより、いろんな角度から社会の現実を見て考えることができると思います。
男女逆転
「本当に私の子ども?」「仕事を頑張りたいから、結婚はまだしないでおこう」
妊娠してしまい結婚したい女性に対し、結婚したくない男性が言いそうなセリフを、女性が言うという、シュールな世界です。
亜季に結婚を申し込んで断られたときに、健太郎が納得しつつもショックを隠せてない様子が、なんだか可哀そうになってくるんですよね。未婚で妊娠してしまった心細さ、子どもをひとりで育てられるかという不安。結婚という形式に頼ってでも、安心したい女性の気持ちがやんわりと表現されていて、モヤモヤした気持ちになりました。
妊娠してからの変化がスゴイ
斎藤工さん演じる健太郎、子の人しかいないと思うくらいはまり役です。最初はイケイケのキラキラしたビジネスマンなのですが、妊娠してからの変化がスゴイです。
最初の方は仕事のことしか考えておらず、妊娠したという状況ですら仕事のため利用できると考えていました。しかし、徐々に子どものことを第一に考える「お母さん」の顔になっていきます。初めての胎動を喜んだり、お腹の子が動かなくなると不安になったり、すごく穏やかで優しい雰囲気になっていきます。
そして、妊娠したお腹がすごいリアル!特殊メイクだそうですが、本当に妊娠しているように見えます。この妊娠した男性役を演じるのは斎藤工さん以外いないと感じるし、上野樹里さんはLAST FRIENDSのときのような中性的な役がしっくりくるなと思いました。
気になった点
主人公や登場人物に対するモヤモヤ
最初は主人公の人間性がいや~な感じですが、最後の方はこの人どこいった?ってレベルで別人のように良い人です。最初はかなりの遊び人で、すぐに女性のことが重くて面倒になって連絡を絶つようなシーンが描かれています。こういう人は世の中にたくさんいるので、ある意味リアルですが…。
そして、職場で妊娠をカミングアウトして、ビジネスとして利用するために子どもを産むことを選びます。
本人も周りも残酷で自己中心的だと思いました。子どもからしたら大迷惑ですよね。自分がそんな理由で産まれたと知ると、自分の存在価値を疑うと思います。それを提案した亜季もひどいなあと思いました。仕事のためなのか、愛情が芽生えたから産もうと考えたのか、この辺はさらっと描かれていてちょっと曖昧です。
しかし、主人公は自分の妊娠を期に、世の中のことにも目を向け始めます。「男らしくない」「男性なのに妊娠なんて気持ち悪い」こんな言葉が飛び交い、自分だけでなく家族まで差別やいじめを受ける社会。主人公は自分が表に出たり、コミュニティを作ったりすることで、そんな風潮を変えてもっと男性の妊夫が生きやすい社会を作ろうと奮闘します。
そういった変化を描きたかったのだとしたら、納得がいきます。
彼の周りの人間も、悪意はないもののセクハラ発言をしたり、妊娠に無知だったり、とにかく苛立たしい言動が目立ちます。しかし、男性妊娠を目の当たりにし、自分も妊娠するかもれしれないと気づいて心を入れ替えていきます。妊娠でメンタルが不安定になり、勢いで辞表を提出した健太郎を、社長まで出てきてみんなで慰めるシーンはとても印象的でした。
無意識に出る悪意のない差別発言や配慮のなさ、男らしさや女らしさの押し付けなど、微妙なあるあるがこの作品では描かれています。悪い人はいないのですが、登場人物全員に対してモヤモヤしてしまいました。
出産してから、うまくいきすぎ?都合が良すぎる?
この物語では、妊娠中の苦悩はしっかりと描かれていますが、順調に子育てを始めたところで物語が終わるため、それ以降の様子は描かれていません。2人は結婚せず、亜季は子育てを健太郎に任せ、シンガポール行き。そんなあっさりと寛容でいれるのか?うまくいきすぎじゃない?といった感じは否めません。
主人公の勤める広告代理店は最初は体制がしっかりいないものの、男性でも産休・育休を取れるようになったことから、臨機応変に対応してくれる会社だと思いました。しかし、これがブラック企業ならまた違ってくるんだろうなあと思います。
子どもが男の子だったと分かったときにアキが言った「勘だけど、女だと思っていた」というセリフも引っ掛かります。原作の漫画では「子育て編」があるので、続編があるのでしたら期待です。
気持ち悪い?この作品の評価
ツッコミどころはあるものの、個人的には良かったし、多くの人が見た方が良い作品だと思いました。日本ではそれなりによい評価が目立ちます。一方、海外では酷評の嵐です。海外の評価サイトでは、10点満点中1点という評価です。
一部の人たちはそれを否定し、作品を擁護する発言もみられましたが、海外では受け入れられないのでしょうか。低評価の人たちの感想をご紹介します。
- コメディだと思って見たのに面白くない。笑えない。
- 気持ち悪い。
- 現実的にありえない。科学的でない。
- フェミニストが作った作品。
- 子どもに見せたくない。
中でも「woke」という感想が多いのですが、英語圏で最近流行りのスラングだそうです。
そのまま、「目覚める」「悟る」という意味で、差別や偏見などの社会問題を認識して、理解しよう!というメッセージが込められた作品のことを言います。このような作品を、イデオロギーとして政治利用している、左翼的だと批判する人たちがいます。
トランプ大統領の息子は、Twitterでこのドラマをわざわざ引用して、Netflixがつまらなくなったといった趣旨の発言をしています。
原作
この作品は、坂井恵理さん原作の漫画「ヒヤマケンイチロウの妊娠」が元になっています。
まとめ
賛否両論はあるものの、社会に対していろんなことを考えるきっかけになるような作品だと思います。ぜひ多くの方に観てほしい、オススメの作品です。
コメント